雛形書庫

An Unmoving Arch-Archive

本読み: 夕暮れに夜明けの歌を

同じくブックサンタ活動をやっていた先輩に触発されて最寄りの書店を訪れた。 何の本を贈るのがいいかな…と自宅の本棚を眺めたときに目が合ったのが本書だった。 書店にあらかじめ在庫があることを確認してから、さほど労せずに見つけた本を手に取ってみると新しいオビが付いていた。 この本を贈りたいと思ったのはいまの世界情勢もあるけれども、それ以外にも理由がある。

本書の第1章では著者の生い立ち、ロシア語を学び始めたきっかけが描かれていて、「高校一年の秋になんとなく、自分もなにか英語以外の言語がやりたいと思った。 (p.7)」 ブックサンタでは中高生向けの本までを受け付けているそうなので、著者の中学、高校時代のエピソードは受け取り手にとってそう遠いものではなかろう、と思ったことがひとつ。 加えてこれはまったくの一個人の回想に過ぎないけれど、僕も高校時代になんとなく(かっこよさそうだという理由で)ドイツ語を独学で学んでいた、という思い出がある。 僕の場合は結局ものにはならなかったけれども、NHKのラジオ番組で外国語講座を聴くこと、未知のものを自分の中に取り込んでいく過程にあった情緒や感覚は、この第1章を読んでいて懐かしく感じられるのだった。 中高生にとって学校で学ぶ英語以外にも外国語があること、あるいはもっと抽象化していえば、学校での勉強以外にも学びの世界が広がっていることを彼ら彼女らに知っていてほしいなと思った。

言語の入口に立とう。目の前にはどこまで続くのかわからない言葉の森がある。ぼんやりと光っているのはなんだろう。坂道の向こうの図書館から漏れている――あれは本の光だ。(p.13)

電子書籍ではなく自宅の本棚に紙の本で持っているのは、その装丁の良さからでもある。 表紙にある絵はもとより冊子の作り方も個性的で、物理本でこそ贈りたいと思えるものだった:

第32回紫式部文学賞受賞おめでとうございます

著者はロシア文学の研究者で、ロシア国立ゴーリキー文学大学を日本人として初めて卒業したと著者紹介にある。 本書では卒業に至るまでの様々なエピソードが綴られているけれども、そこに通底しているのは学びの中にある輝きだなと感じた。 著者が文学を学ぶことで得たような魂の出会いのある大学生活、その一例を本書で見て欲しいという気持ちがあったのも、この本を贈りたい理由のひとつであった。 大学での学びの幅は中学や高校よりもずっと広くて、こうした経験もできるんだよということ。

僕はロシア文学についてはまったくの門外漢だけど、1年ほど前にとあるブログ記事で紹介されていたのがきっかけで本書を手に取ることができた。こっそりと記して謝意を表します。