雛形書庫

An Unmoving Arch-Archive

最近の学び:正しいものを正しくつくる 著者による本読みの会 第2回

8月末に開催されていたイベント、第1回 *1 の続編。いろいろあって振り返りできていなかったのでフォローアップ。

devlove.doorkeeper.jp

 

 

「要件定義」とは何か

要件定義については『正しいものを正しくつくる』1.3節で述べられている。これまでずっと要求定義だと思っていたら、よく見ると要件定義が正しかった。

1.3節を読み進めると出てくる「『要件』という言葉は人によって込めている意味が異なる場合があるため注意して扱う必要がある」という一節には同意しかなく、それは "要件" に限らずより一般的に「言葉は人によって込めている意味が異なる」ことの難しさを日々感じている。たとえば本書では「要求」「要件」「仕様」について、

  • 要求」とは、「こうしたい、こうありたい」という希望
  • 「こうしたい」という要求を実現するための条件が、「要件
  • 要件を満たすための詳細な条件として「仕様

と整理されているけれど、一方で「ここで書いた内容だって私の認識でしかない」との注釈が入る*2

冒頭で僕が要求と要件を取り違えていたように、こうした似ているけれど微妙に異なる言葉の取り扱いには注意を要するべきと本書では述べられていて、それは自分の経験からもそのように実感している。そして件の要件定義においては「何が決まっていて」「これから何を決めるのか」の認識を揃えることの大事さが指摘されている。

 

 

プロダクトづくりの不確実性

本書の図2において、プロダクトづくりの不確実性とは、

  • プロダクトの領域による多様性
  • 作り手の多様性

の積であると述べられている。前述の「言葉は人によって込めている意味が異なる」とは、より抽象化すれば後者の「作り手の多様性」に行き当たる(と理解した)。そして前者の「プロダクトの領域による多様性」とも併せて、認識のブレをなくして不確実性を抑え込むものが要件定義である(と理解した)。要件定義とともに「合意を重視する」「合意形成を遵守する」というやり方がこれまでの戦い方だった。

 

しかしこれがうまくいかないのは、他の参加者からのコメントにもあったように、かりに僕自身が顧客だったとして、要件をすべて知っているか? と問われるとかなりあやしくなってしまうことからも、なんとなく理解できる。開発者として実際に作ってみないとわからない、あるいは作っているうちにわかることがあるのも経験的に理解している。要件定義にはじまるこうした作戦とは別に、本書第2章で詳しく説明されるアジャイル開発がある。

アジャイル開発の説明に出てくる「誰も正解がわからない」「間違う前提を念頭に起きつつ」という一節が好きで、これらの裏にあるものはまさに自身に対する謙虚さであろう。アジャイル開発に限らず自戒としてよく憶えておきたい。

 

 

アジャイル開発、スクラムガイド

アジャイル開発を表現する言葉として「インクリメンタル」「イテレーティブ」のふたつが紹介されていて、なんとなく自分が日頃ありたいと思っていた概念を端的に表現していて参考になった。

アジャイル開発とともに挙げられているスクラムガイドは、これまで読んだことがなかったので今回初めて読んでみた。スクラムガイド冒頭で「軽量、理解が容易、習得は困難」とあり、またスクラム自体が経験主義 (empiricism) *3 を基本としていることもあり、実際に体験・体得しないことにはこれ以上は語れないなという感じがある。スクラムは標準プロセスではなくフレームワークであるということ、そしてその経験主義としてのあり方は本書の2.1節に記述があって、これまでに培ってきた自分の理解や世界観とも親和性があった。まずは試してみましょうということで、それは本書の言葉でいえば「実践に支えられた知識を頼りとする」こと。

 

 

おわりに;今回の学び

  • 言葉は人によって込めている意味が異なる(あと要求定義ではなく要件定義が正しい)
  • 謙虚さを忘れずにインクリメンタルかつイテレーティブに経験知を積む
  • スクラムの基本となる)経験主義の経験とは、個人的な体験もしくは経験に限定されるものではない、また経験主義と対立するものは理性主義

 

第3回は明日8時からということで、また参加していきたい。

devlove.doorkeeper.jp

 

*1:

tl.hateblo.jp

*2:これは著者の誠実な態度の表れと感じている

*3:これまで少し誤解していたのだけれど、経験主義のいう経験とは「私的乃至個人的な経験や体験というよりもむしろ、客観的で公的な実験、観察といった風なニュアンスである」(経験論 - Wikipedia、2020/09/12閲覧)であるとのこと。また、経験主義と対立するものに理性主義 (Rationalism) があるが、その違いを論じた記事は、重たくてちょっと読めてない