雛形書庫

An Unmoving Arch-Archive

尾澤愛実『現場の「ズレ」を解消するコミュニケーションメソッド』を読んだ

本書表紙には「マネージャーのための関係構築ヒント集」とあり、また冒頭の「はじめに」にも見られるように、主な対象読者はマネージャーである。今の僕はマネージャーではなくメンバーであって、その点では本書の想定する読者ではないのだけれど、それでも現場の「ズレ」については思うところがあったので読んでみた。あるいはそう遠くない将来、自分がマネージャーの立場になる可能性もゼロではないだろうから、そこでは今の自分よりももっと良い感じになっていたいと漠然と思いながら読んだ。

 

 

マネージャーのために書かれたという本書だけど、実際にはメンバーの立場で読んでもためになる。第2章の「ズレ」の具体的な事例とともに出てくるメンバーのあり方、悩んでいる様子には僕も身に覚えがあって、事例のあるある感が感じられた。そのうえで、マネージャーがどう考えているのか、あるいはどんなことを考えるべきかを、今の立場すなわちメンバーの側から先回りして把握できたのが良かった。我々メンバーはマネージャーとはそりが合わないとぼやき、そしてもっと上手くなりたいと悩みがちだけど、しかしマネージャーもまたメンバーとの価値観の相違に戸惑い・どう接すれば良いか考えを巡らせているということ。そうした可視化されないマネージャーの気遣いは、メンバーとしてもちろん頭ではわかっているつもりではあるけれど、こうして場面毎の具体的な事例に落とし込まれることで改めて認識できた。

 

そしてメンバーへのチェックポイント、これはマネージャーに向けた対処法として提示されているものだけど、メンバーの立場からはこれをそのまま自分自身のチェックポイントに使うことができる。チェックポイントで引っかかったところがあれば、対応するステップの解説を読むことで、自分に足りないところ・マネージャーから何を期待されているかがわかる。個人的に特に良かったのは「メンバーがなかなか相談をしてくれない」のところで出てくる6項目の相談フォーマットで、このフォーマットを通じてやはりマネージャー側の視点、こうした要点が整理されていると応じやすいというのを知ることができた。僕自身も相談があまり上手くない自覚があるので、これからはこのフォーマットを使ってうまくやっていけたらと思う。

 

冒頭の「この本の構成について」で述べられているように、本書では現場での具体的な事例がいくつか挙げられているのだけれど、そこで示されるのは場面レベルでの対処法にとどまらない。各事例の終わりに出てくるコラムは、場面を離れた視点レベルでのより良いアプローチを提供するものになっている。コラム7の学習性無力感と、コラム8のやる気ランクは知識としても役に立つし、あるいは今の自分が持っている仕事への姿勢とランクを照らし合わせることで、自分のやる気がどのあたりに位置しているのかを把握するのも面白い。コラム4は個々人の「解釈の違い」を浮き彫りにする問いと、そこで教育心理学が果たす役割を教えてくれる。また、コラム6で取り上げられているアサーションは、その内容については本書では詳しく触れられていないものの、そういう優れた手法もあったことを思い出させてくれた。

 

各コラムではもっと理解を深めるための参考文献も挙げられていて、本書に次いでいくつかの書籍を読みたくなった。専門的なところまでは深入りしないけれど、その取っ掛かりとして身近な事例からさくっと解説してくれる本、それは本書のような本だけど、こういった速さや柔軟さもまた同人誌の良いところといえるだろうか。■

 

 

Bibliography