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教育心理学を学ぶ会『理論と事例でわかる自己肯定感』を読んだ

冒頭に出てくる「日常的に現れるお困りごと (p. 1)」は強力なフックで、僕はこのツイートで見かけたのをずっと覚えていて、あとでBOOTHで買って読んだのでその感想。

 

 

本書から得られた自己肯定感についての最も良い学びは、自己肯定感には「とても良い (very good)」と「これでよい (good enough)」の2つがあるということ、かつどちらかではなくどちらも大切だということ。そして冒頭のお困りごとへの対策として、これら2つの気持ちをどうやって向上していくかが説かれる。とはいえこれらの気持ちが高すぎるのも却って良くないとのことで、巻末には自分の自己肯定感を数値化してチェックできる質問リストが載っている。お困りごとに現れてこなくても、自分の自己肯定感が現状どうなっているかを定量的に把握できるのは今の自分を理解し・対策を講じるうえで助けになる。

 

質問リストをやってみて、「とても良い」についてはいい感じのところに収まっているけども、「これでよい」のほうは、まあなにかしら他人と共有しましょうねという感じになった。「『これでよい』気持ちを向上させるには共有体験が効果的です (p. 18)」とあり、その詳細は本書に譲るけれども、時間、空間、モノ、感情といった共有する対象はなんでも良いとのこと。あるいはこうして感想を書くことも共有体験のひとつに数えられるだろうか。「これでよい」のもにょもにょ感はなんとなく自覚のあったところを、今回の質問リストで定量的に可視化される形となったわけだけど、ただ絶対値にこだわりすぎるのもどうかなと思っていて、値の出方には個人差もあるだろうし、大事なのは時間微分だろうなという気がしている。もし半年とか1年後に同じテストをやってみて、スコアが急に低く(あるいは高く)なったりしたらそれは良くない兆候かもしれない。その意味で現時点でのスコアを今回こうして記録できたのは良いことである。

 

記録といえば、記憶していても結局忘れてしまうので、何らかの形でログに残しておくことが大事だと思う。記録があれば自分のニュートラルな状態と、そこからのずれがなんとなくでもわかるし、今のよろしくない状況が定期的に起こるものか、それとも一時的なものかが判別できる。僕は一年前の記録、それは手帳に走り書きで残しておいたメモ書き程度でしかないけれど、それでもこの時期の不調が去年にもあったこと、そしてそこから時期的に花粉が原因なんだろうなあとわかった。あとは本書を読んで日記を書こうとあらためて思った。記憶だけを頼りに自己肯定感などの気持ちの変化を辿ろうとするのは、少なくとも僕にとっては無理があるから、そのときの感情は何らかの形で記録に残しておくようにしたい。そう思いながら本書の第2章を読んでいたら、「日記療法 (p. 49)」という記述が出てきて、いわく日記には気持ちを整理する効用があり「心理療法としても確立された手法です (p. 49)」とのこと。そうであればなおさら日記を書くことは良さそうなのでやっていきたい。

 

著者は連名になっているが表紙には「教育心理学を学ぶ会」とあり、教育あるいは心理学というそれぞれの単語は知っていても、教育心理学という領域はこれまで全く知らなかった。ウィキペディアを参照すると「教育的な視点から心理学を応用しようとする学問 *1」とあり、あるいは巻末の参考文献に挙げられていた『本来感研究の動向と課題』という論文を本書のあとに読んでみて、この分野がやろうとしていることがなんとなく理解できた。それは学校教育現場でもっとうまくやっていこうという取り組みであって、その裏には「昨今の学校現場で起きている不登校やいじめなどの問題行動 *2」があるという。この分野に触れる機会がなかったのは単に自分の無関心によるものか、あるいはそうした問題にこれまで直面してこなかった僥倖か、いずれにせよ本書を通して新しい世界に触れられたのは良いことであり、予想だにしないところからボールを投げてくれた著者の方々、そしてこのようなジャンルの本も許容してしまう技術書典の懐の広さに感謝したい。■

 

*1:教育心理学 - Wikipedia

*2:折笠国康, 庄司一子 (2017) 『本来感研究の動向と課題』 p.87