雛形書庫

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Deliberate Derivative of Essay#25 in 『月夜のサラサーテ』

マッハ」とは、音速を基準にした速さの単位であって、エッセイにもある通り、「おおよそ一秒間に三百四十メートルの速さである」。これは時速に換算すると「千二百キロほどの超高速」になる。一方、「普通の旅客機は時速九百キロ程度」であるから、この速さをマッハに直すと、900を1200で割ってマッハ0.75となる。本当?

ここで音速は「気温によって変化する」から、旅客機の飛行条件での音速で除してやるのが正しい。旅客機は高度約30000フィートを巡航していて、そこでの温度はマイナス約40度、すると音速は300 m/sほどになる。なので旅客機が飛行するときの速さをマッハでいうと、この音速を使って計算してやることで、マッハ0.8を少し超えたくらい、と求まる。

 

普通の旅客機はマッハ0.8を少し超えたくらい、つまりマッハ1を超えない程度の速さで巡航しているけど、かつてコンコルドという旅客機はマッハ2で飛んでいた。「人工衛星などは秒速で数キロメートルなので、軽くマッハ10以上」、さらにスペースシャトルの再突入時の速さはマッハ20を超える。空気の性質はマッハ1を超えるか超えないかで大きく変わってきて、マッハ1よりも小さければ亜音速流、大きければ超音速流に分類される。超音速流でもマッハ5程度よりも大きくなると、その空気の物理的な性質が変わってくることから、この領域はさらに極超音速流として分類される。

 

空気中を飛ぶものは、音速を超えられないのではないか、と唱える者もあったらしい」。空気中を飛ぶものの速さがマッハ1を超えて衝撃波が発生すると、それに伴って造波抵抗が発生する。ここで亜音速、つまりマッハ0.8を少し超えたくらいで飛んでいたとしても、局所的にはマッハ1を超える領域が現れて、そこでは衝撃波が発生し、造波抵抗が発生する。飛ぶ速さがマッハ1にどんどん近づくにつれて、造波抵抗は無限大に大きくなり、結果として音速は超えられないと考えられていた。しかし実際には、十分な推力を用意してやればマッハ1を超えることができたし、しかも「音速の壁を超えたあとは、意外にもすいすいと飛べたらし」い。マッハ1を超えてなお速くなると、抵抗は逆に減少していく。

 

ところで「『マッハ』とは、もともと科学者の名前」であり、オーストリアの科学者エルンスト・マッハにちなんでいる。彼は物理学者であり、しかし哲学者でもあったし、科学史や生理学、音楽学にも貢献した類まれな万能人であった。彼の著書では『マッハ力学史』が有名だけど、彼は『時間と空間』という書籍もまた著している。ふと真賀田四季の一台詞が頭に浮かぶ、彼女のこの言葉はとても美しいと思っていて、僕は折に触れてこの一節を思い出す。彼ら彼女ら天才たちには、どんな世界が視えているのだろうか。■

時間と空間を克服できるのは、私たちの思想以外にありません。生きていることは、すべての価値の根元です。――森博嗣四季 秋

 

月夜のサラサーテ The cream of the notes 7 (講談社文庫)

 

Bibliography

Introduction to Flight