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『技術書同人誌博覧会 公式ガイドブック』を読んだ

はじめに

2019年7月27日に開催された技書博こと技術書同人誌博覧会に一般参加しました。

 

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本書は参加者全員に無料で配布された冊子で、無料とはいえページ数にして100ページを超え、パンフレット(小冊子)ではなくガイドブックの名にふさわしいつくりになっている。こうしたオフィシャルな文献が一般的に含んでいる情報、それらは参加サークルの詳細や注意事項などが相当するけど、そうしたものにとどまらない主催者による解説記事として、開催に至るまでの経緯、それに技術的な背景が読めるようになっている。開催の裏側にあった主催者の思いを知ることができるのはとても興味深いし、そして何よりも、技術の解説記事それ自体が体系化の取り組み、このイベントのキャッチフレーズにもある「技術書というアウトプット」を体現しているところが良い。本書冒頭の「ごあいさつ」で「エンジニアが日夜多くのリソースを使って執筆し、圧倒的なこだわりをもって作りあげられた技術書を手に取り、その熱量を感じてください。」と語られる熱量は、本書からも確かに感じることができる。

 

技書博公式ガイドブック担当のおやかたさんよりいただいた返信ツイート(ありがたみ)

 

 

技書博は何を目指しているのか

本書冒頭のごあいさつでは実行委員長の言葉として、イベントの趣旨やそこに込められた思いが表明されている。少し長いけど以下引用:

私たちエンジニアは、日々の業務や学習によって得た膨大な知識を記憶し、新しい価値を生み出しつづけています。その源泉である知識の大半は暗黙知として個人の中に留まり続け、他者に共有できていない有用な情報がたくさんあります。私たちは、知識を集合知としてコミュニティに還元しあうことによって、さらに何倍もの知識を吸収でき、よりよい世界を作り出せると考えています。

 

続いて本書後半にある「技書博を支える技術」の第1章では、数あるアウトプットの中からなぜ技術書という形を選んだのか、またすでにあるものとは別に新たなイベントを立ち上げることについて、その意図が述べられている。そして開催を決めてからこれまでの経緯、主催者として考え・悩んだことが紹介されている。こうした意図や経緯を知ることができるのは個人的に興味深いし、かつ価値のあることだと思っていて、そこに納得感があればそれだけ応援したくなる。

 

実利的な面でいえば、すでにいくつかの技術書イベントがある中で、このイベントのスタンスを表明することはその差別化において意味がある。あるいは他イベントに慣れている参加者が抱くかもしれない、「思ってたのとなんか違う」感を減らすことにも繋がるだろう。他ではあまりみられない、画期的だなと個人的に思ったのはスポンサー体系、あと「博覧会」という催事名で、そこにある意図はいずれも第1章で述べられている。正式名称である技術書同人誌博覧会はさすがに長いなと感じるけれども、単語をうまく配した正方形のロゴデザインは素敵だし、略称である技書博は(漢字変換で出ないので、単語登録が必要な点を除けば)語呂も漢字の並びも良い。

 

 

技術書としてのガイドブック

技書博公式ガイドブックを支える技術

「技書博を支える技術」の第4章では、このガイドブック作成の背景にあった工夫や思想が紹介されている。「ノウハウを文章として可視化することで、車輪の再発明を防ぎ、次回に向けて踏襲するところと改善・変更するところをわかりやすくすることができます」とは本文からの引用だけど、これこそまさに体系化の取り組みであって、技術書としてのアウトプットを体現しているのがとても良い。この段落で言及されている「いつマニュアル化するか問題」については完全に同意するところで、終了後のモチベーションに期待してはいけないのは個人的な経験からも明らかになっている。こうして現在進行形で解説記事にするのは(同時並行で相応に大変だったとお察ししますが)、当時の状況を忘れないうちに書き残し、また速を保ったままネタを形にするうえでもすぐれたスキームだと思う。

 

そして、「今回の公式ガイドブックの特徴として、全サークルに1ページの半分に相当するスペースを提供し、各サークルの紹介をしてもらいました」とある通り、第4章に続く形でサークルカットとは別に全サークルの紹介が載っている。全66サークル分、30ページほどにわたる紹介になっているんだけど、ここでの一覧性の体験がわりと新鮮で、ウェブサイトとは異なる紙媒体ならではの良さを感じた。公式サイトのサークル紹介は1サークルが1ページ、本文と画像のレイアウトがかっちり決まっている一方で、この半ページの紹介では見開きで4サークルが一度に見られて、その書影と文章のレイアウト、書体も含めて各サークルの個性が感じられたし、かつ十分なスペースで情報量も担保されていた。紙媒体といえば、このガイドブックの表紙はしっとりした手触りになっていて、細部に至るまでこだわりが感じられる。

 

技書博ウェブサイトを支える技術、一般入場を作る「技術」

上で触れた紙媒体とウェブサイトで読みの体験が異なるということ、ガイドブックを語る第4章に対し、ウェブサイトがどのように設計されたかについては「技書博を支える技術」の第2章で述べられている。馴染みのない横文字が多くて、理解が追いつかないのが正直なところで申し訳ないけれど、それでも「サークルページの設計」という項では、サークル紹介ページの裏側にあった思想を知ることができて面白い。

 

そして「技書博を支える技術」の第3章では、一般入場を滞りなく進めるための技術について紹介されている。僕もこの章を読むまでは、「『一般入場』といっても、参加者を並べて時間になったら会場に入場させるだけでしょ?」と思っていたひとりだけど、実際には奥が深い。3.1節を読めば入場の大事さ、それは入場が失敗すればイベントそのものが失敗になりかねないというクリティカルなものであることがわかるし、続く節では待機列の構築から実際の運用までが筋道立って理解できる。あまりに馴染みすぎていて見過ごしてしまいがちなものにも技術があるということ、それを教えてくれる本章は「すべての知識を対象に、個人の暗黙知からコミュニティの集合知へと還元する」という技書博のポリシーを反映している。

ここで共有されるべき知識は、至高の情報を持った著名な方からのみでなく、すべてのエンジニアの内に秘めているすべてが対象です。あなたの知識は必ず誰かが必要としていて、アウトプットすることで必ず誰かの役に立つことができるはずです。(技術書同人誌博覧会公式サイトより引用)

第4章でみられたのと同様に、この精神のあり方を本書自らがやはり体現していること、それがとても素晴らしいと思う。

 

 

おわりに:次回開催のご案内

冒頭の「ごあいさつ」からページをめくると第2回の開催の告知があって、次回開催がもう決定しているらしい。次回は倍以上の空間と、今回以上のサークル数の規模が予定されていて、また「新しい仕組みをいくつか企画しています」とあり、こちらもなんだか気になる。開催日は2019年12月14日(土)とのこと、また参加していきたいですね。

 

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