雛形書庫

An Unmoving Arch-Archive

GBVS日記 (2) 境界条件とキャラセレ

振り返りの記録、2日目

境界条件

GBVSは正式名称をグランブルーファンタジー ヴァーサスといって、2020年2月に発売された対戦格闘ゲーム。 本家にあたるグランブルーファンタジースマートフォン向けのゲームだそうだが、僕はやったことがない。 以前の記事に書いていた通りGGSTがリリースされるまでのつなぎとして、細かい記録が残っていないが購入履歴からは2020年8月にプレイし始めた様子が窺える。 最終アップデートとなるVer 2.85が今年1月に提供されて、ゲームのライフスパンが約3年にわたったことを鑑みれば、リリースしてから半年後の早い段階でゲームの存在に気付けたのは結果的には運が良かったといえそう。

当初の想定ではGBVSはあくまでもつなぎであって、しかし肝心のGGSTをやっていてつらいなと思ったのは投げまわりのシステムであった: 投げは4Dか6Dでしか成立しない、また遅め投げ抜けの救済措置がないといった2点でしょんぼりすることが多かった。 しゃがみガードの状態から横要素への入力の移行にかかる時間に加えて(たまたま見たWikiに同じ趣旨のことが書かれていてその通りだと思う)、そもそも投げ抜け猶予が短いシステムになっているらしく(GBVSの地上投げ抜け猶予22Fに対してGGSTは10Fしかない)、一生投げ負けていた。 GBVSでは前述した猶予フレームの長さ、また投げが方向入力によらないコマンド方式であって、よしんば遅め投げ抜けになったとしても最悪の状況は避けやすかった。 その他にもGBVSとGGSTではシステム面に違いがあるけれども、総じてGBVSのほうがシンプルなつくりになっていると感じていて、そのシンプルさが今となってはいいなあと思った。

あとはゲームシステム以外でいえば、キャラクター同士が割とほんわかと戦っている様子がよい。 本家のスマホゲーでどのようなストーリーが語られているのか、また登場キャラにどういう関係性があるのかを知らないけれど、一部を除けば皆がお互いへのリスペクトを忘れずに戦っている。 格ゲーはその性質からして野蛮になりがち(個人の感想です)なのに対して、初めてこのゲームを見たときには試合前の掛け合い・勝利後のメッセージには少し驚かされた。 GBVSの掛け合いはキャラの組み合わせの数だけ揃っているらしく、しかも同じ組み合わせでも1P側と2P側で微妙に変化するようになっていて、このゲームが丁寧に作られていることがわかる。

あとは2023年に後継作が出る(予定)とのことで、今から本作に投下するリソースは次回作でも生きてくるであろう、というやや吝嗇な読みもある。

キャラクター選び

2020年当時はシャルロッテを使っていたが、今回はメーテラを使うことにした。

シャルロッテは典型的なrushdown character 1 であって、その強さはリンク先のProsにある通り。 本作は画面端での攻めや連続技が強力なバトルデザインになっているのに対し、追い込まれたときの切り返しに使える対空技が個人的に便利だと感じたので使い始めたのだった。 ジャンプが速いので空中からの上下段の二択を仕掛けやすいのもよい。 一方で弾を持たないのでひたすら接近戦を仕掛け続けるスタイルとならざるを得ず、格闘ゲームの特性のひとつであろう弾についての知見を深められていないな、という感覚があった。

メーテラはシャルロッテとは逆にkeep-away characterであり、遠距離で戦うことを得意とするタイプ。 遠距離戦の知見を得るだけであればGGSTでアクセルでも試せばよかったのかもしれないが、メーテラのほうが個人的に好きだったのでこちらにした。 同じくGGSTでラムレザルも良さそうだったけど、ラムレザルはみんな使ってるしなあ…ということで、あまり使っている人がいなさそうなメーテラを選んだ。 今回の振り返りに合わせて聴き直しているResearchat.fmエピソード84で語られていた「みんなが使ってないキャラを使いたい」というのは自分もまさにその通り。

このエピソードのShow notesで「キャラセレと研究テーマ … いつか話したいテーマ」という項目が出てくる。 この伏線はエピソード109で回収されているけれども 2 、ここでは別の文献としてウメハラコラムを紹介しておきたい。 この本のTheme#9で格ゲーのキャラ、すべて試していますか? という問いが挙げられていて、そのメリットとデメリットについてウメハラ選手とモリカワ店長が対談をしている。 いわく、多キャラを使うことでメインキャラの位置付けを相対的に把握することができると。

いろんなキャラを使うことで「どこからどこまでが、そのゲーム特有のシステムで、どこからがキャラの個性なのか」がハッキリと区別できるようになってくる。そうなれば、どのキャラを使っても勝てるようになるし、メインキャラにも深みが増す。視野が広がることで変化の幅が広がるから、結果としてモチベーションの維持にもつながる。(p.36) [梅原, 2013]

これはおそらく研究にも通じる話で、一つのテーマに絞って取り組んでいるうちにはその研究の位置付けがよくわからない。 研究において難しい場面が出てきたときに、それが研究活動一般に生じる難しさなのか、あるいは取り組んでいる研究テーマ固有の難しさであるかの区別がつきにくい。 そこで毛色の異なるサブテーマに取り組むことは、両者の位置づけをよりよく理解することにもつながるし、あわよくば両者の掛け合わせからより希少価値の高い研究テーマが生まれてくるかもしれない。 これを書いていてふと思い出したのは、プログラム雑談のどれかの回をきっかけに読んだ伊藤先生の本、東大名物教授がゼミで教えている人生で大切なことでもリスク分散の観点から複数テーマ選択の重要性が述べられていたこと。 あるいは同書に出てくる「森嶋先生の人生三段ロケット論」という箇所も、一つのテーマにとどまらずに変化を持たせつつ前に進んでいくという意味では繋がってきそうではある。

話をウメハラコラムに戻すと、前述のTheme#9とは別に格ゲーは立場の違いを楽しむものという見出しがTheme#1に出てくる。そしてその違いが一番分かりやすいのが飛び道具であるとウメハラ選手は述べている。 弾を使わず接近戦を仕掛けるシャルロッテと、弾に特化して遠距離で戦うメーテラの両極端を使ってみることで、格ゲー全般に対する学びも大きかろうと考えた。

とまあいろいろと理由は考察してきたものの、結局のところはメーテラがかっこいいからの一言につきるのかもしれない。 Researchat.fmエピソード85で語られていた「格闘ゲームに使いキャラがいるかどうか」、あるいはResearchat.fmエピソード159の終わりで語られていた「格闘ゲームは使いたいキャラがいないとガチれない」というのは、まさにその通りだなと感じる。「出したいときに出したい技が出せるだけですげー楽しいからさ」とは東京トイボクシーズ 1巻: バンチコミックスにあった蓮の台詞だけど、それは好きなキャラであればなおのことだろう。

References


  1. rushdownについての補足として良い記事があった
  2. Research on Researchat (2) - 雛形書庫