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Research on Researchat (3)

Researchat.fmのおすすめ回を紹介します。後編(研究とゲームのはなし)

はじめに

これまでの前編と中編ではそれぞれ研究とゲームに関連したエピソードを紹介してきた。

tl.hateblo.jp

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しかし実際にエピソードを聴いてみると、これら2つはそれぞれが独立して出てくるのではなくて、ある関係性を持って現れることに何となく気付かれるかと思う。 最後となるこの後編では、研究とゲームの枠を超えて両者がつながるエピソードを紹介できればと思う。

TL;DR

  • 研究とゲームのはなし:エピソード10, 53, 65, 109をおすすめ

研究とゲームのはなし

記念すべき第10回目であるエピソード10 (2019/03/27) は、自作キーボードをはじめとしたツールの自作について語る回。 前編で紹介したエピソード66で引用されているほか、Ep.94でもエピソード84, 85(ともに中編で紹介)とともに引用されていて、Show notesでわりとよく見かける印象がある。

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研究に使うツールのうち自作キーボードはまあ想像がつくとして、顕微鏡まで自作する流儀があることはこのエピソードで初めて知った。 それまで僕は顕微鏡といえば既製品を買ってくるイメージしかなかったのだけど、改めて考えると無いものは作れば良いので、欲しいスペックの顕微鏡を自分専用に自作することは理にかなっている。 また世間では顕微鏡のワークショップ(この回とEp.21で登場)もあるということで、顕微鏡の自作はそれほど特殊な話ではないのだと思う。 Ep.21が出てきた流れでいえば、このエピソードで言及されているおすすめ本『イシューからはじめよ ― 知的生産の「シンプルな本質」』にも実験装置を作る一節があったことを思い出した:

米国の大学・研究所では、「マシンルーム」というものがあり、そこにいるプロが実験に使う装置をカスタムメイドでつくってくれる。その際には「どんな目的で、どんなデータがほしくて、実際にどんなデータが取れそうか」といった、こちら側の推定を聞いてつくるわけだが、その推定が甘いとせっかくの装置と費用がムダになり、頼んだほうも頼まれたほうも多大な苦痛が生じる。

――安宅和人著『イシューからはじめよ ― 知的生産の「シンプルな本質」』(英治出版)p. 190

"どんな目的で、どんなデータがほしくて、実際にどんなデータが取れそうか" を考えるのは顕微鏡に限らず、キーボードやアーケードコントローラー(アケコン)でも似たようなことが言えるだろう。 目的次第でデバイスを自分好みに改造もしくは自作していく楽しさや奥深さは、どのツールでも共通のものだと思う。 編集後記の締めの一文「『自作すればいい』と考えると色々な可能性が拡がるので、意識していきたい。」はすばらしい読後感(聴後感?)を残してくれて、僕も意識していきたい。

顕微鏡ワークショップについて語るEp.21が『イシューからはじめよ』を紹介しているのは前述の通りだけど、この本を引用しているもうひとつの回がエピソード53 (2020/4/15) になる。 生産性や最適化、問題解決技法に関連した話が展開される。 このエピソードでの研究とゲームを行き来しつつ話が広がっていく感覚はとても良くて、話題も世界史、物理、生物、機械学習と多岐にわたるのが面白い1

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個人的には22分すぎから始まるプロゲーマーのパッドへの移行の話と、それを受けて続くcoelaさんのエディタの移行の話は、研究環境にとても貴重な示唆を与えてくれたのは以前に記事にした通り。 ここで僕はパッドはRazer Raion Fightpad、キーボードはMistel BAROCCO MD770でそれぞれ一点読みが当たったおかげで、エピソード10でちらっと垣間見えた自作改造の沼には今のところ嵌らずに済んでいる(キーボードのほうは予備兼職場用の2台目(Bluetooth対応)を買ったけど、これは沼ではない…はず)。 VSCodeとともにMarkdownを使いながらメモやブログの下書きを書いているし、Juliaは一時期お休みしていたものの、そのモチベーションは細く長く続いてくれている。 本当にバラエティに富んだ内容の回なので、聴いた人にとってインスパイアされる話題がひとつでも見つかれば良いなと思う。

エピソード53が幅広い話題を扱った回であるのに対して、エピソード65 (2020/07/13) は "枯れた技術の水平思考" とバイオテクノロジーの関係について集中して深堀りした回になっている。

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枯れた技術の水平思考とは元任天堂の技術者・横井軍平が唱えた哲学。 おもにゲームの分野で言及されることの多いこの思考法について、バイオテクノロジーの文脈から議論がなされる。 分野が異なるとはいえやはり学びが多く、以前の記事で以下のように書いていた:

話は戻って、Researchatエピソード65の前半部分を聴くと、横井軍平がどんなプロダクトを発明してきたかがよくわかる。エピソードを聴いたあとに本を読み返してみて思ったのは「これ、Researchatで聴いたやつだ!」となるところが多くて、彼の生い立ちや功績がうまく要点を拾って紹介されている印象。

テーマである枯れた技術の水平思考についてはバイオテクノロジー分野での実際の応用例が紹介されていて、僕はこの思考法は娯楽の分野にしか通用しないものだと思っていたけれども、上手くやれば科学技術や研究にも活かせるのでは、という気づきを得た。エピソードにあった「水平思考のためにどれだけ広い知識を持てるかが戦う力」という指摘には頷くばかり。あと "Brainbow" で検索したら綺麗だった(ネーミングセンスもよくてすばらしい)。

――最近読んだ本 - 雛形書庫

エピソードでは横井軍平の功績だけではなく、任天堂の山内社長の目利きにも着目している点もまた目の付けどころがシャープ2。 この部分を受けて上の記事では関連図書として『反秀才論 (岩波現代文庫)』を挙げさせていただいた。 そしてエピソードの後半ではピタゴラスイッチをはじめとする教育番組のクオリティの高さも再認識することができる。 身近にある機構や概念が別の事例に応用できないか、という視点を常に持ちながら日常をこなしていきたい。

おすすめシリーズの最後に満を持して紹介するのはエピソード109 (2021/07/31) で、タイトルはロシア語で読めないけれども、エピソードを聴いた人ならばこのタイトルである理由がわかるはず。最後は勝利で飾るのだ:

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ツイッターで少しつぶやいていたけれども、格ゲーと研究でここまで親和性や類似性があるとは思っていなかったので大変に学びがあった。 参入障壁を下げるための良いチュートリアルの重要性であったり、キャラ(研究テーマ)の選択にかかわる器の大きさとコンセプトとキャラ(研究)への愛、知識の蓄積と今夜勝ちたい行動のバランス、環境への対応(スト6になったときどうするか?)、勝つことは手段に過ぎず真の目的は生き残ること、――など、繰り返し聴くたびに新たな発見がある。

かつて読んだ記事に「ゲームは人生の解釈である」という一節があったけど、このエピソードからは研究はゲームであるという解釈を得ることが出来た3。これまでのエピソードから数多くの文献や動画をいただいてきたので、ありがたく参考にしつつ考察を深めて研究を攻略していきたいところ。

おわりに

Researchat.fmでの研究とゲームが重なる領域にあるおすすめエピソードを紹介した。 研究あるいはゲームの話題は巷でもよく見かけるけれども、両者を掛け合わせた話題やそこから生まれる洞察というのはやはりResearchatならではの魅力なのだと思う。 どちらのテーマも個人的に興味と親和性があってこれまで多くのエピソードを聴いてきたことから、このたびの一連のおすすめ紹介と相成った。

前編の研究のはなしで触れたように、専門性の違いからバイオロジー関連のエピソードにはほとんど触れることができなかった。 またゲームについても、エピソードを聴く立場によってはまた違った視点や世界が広がっているかもしれない。 そうした部分についてはまた新たなまとめが出てくることを期待しつつ、みなさまにも自分だけの最強のResearchatプレイリストの自作を楽しんでいただければうれしい。■


  1. ちなみにこの回の序盤で語られている幻の「良いプレイとは何か論」がとても気になるので、いつか読める(聴ける)日が来るのを楽しみにしています。

  2. 横井軍平が開発に携わったゲーム&ウオッチやゲームボーイの液晶はシャープが供給した

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