雛形書庫

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先日配信されたResearchatのエピソード64が完全に自分の思いを代弁してくれていて、ようはゲームは遊べるうちに遊びましょうということなんだけれど、それに触発された僕はHelltaker *1で悪魔ッ娘ハーレムづくりにいそしんでいたところ、次のエピソード65が配信されていた。 

 

この回のテーマである枯れた技術の水平思考に関連して、Shownotesにも挙げられている『横井軍平ゲーム館: 「世界の任天堂」を築いた発想力 (ちくま文庫)』は僕もかつて読んだことがあって、もう一度読んでみようと本棚を探したけれど見当たらなかった。代わりに同じ著者による書籍、『任天堂ノスタルジー 横井軍平とその時代 (角川新書)』がKindleに残っていたので、こちらを読み返してみた。僕の記憶が正しければ、この2冊がカバーする領域はだいたい重なっていたように思う。というか、同じ著者による横井軍平に関連する書籍はたくさんあるので、以下に時系列を整理しておく。

  1. 横井軍平ゲーム館 (1997年、アスキー
  2. ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男(2010年、角川書店

  3. 横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力(2010年、フィルムアート社)※1.の復刊

  4. 横井軍平ゲーム館: 「世界の任天堂」を築いた発想力(2015年、ちくま文庫)※3.の復刊

  5. 任天堂ノスタルジー 横井軍平とその時代(2015年、角川新書)※2.の復刊

 

話は戻って、Researchatエピソード65の前半部分を聴くと、横井軍平がどんなプロダクトを発明してきたかがよくわかる。エピソードを聴いたあとに本を読み返してみて思ったのは「これ、Researchatで聴いたやつだ!」となるところが多くて、彼の生い立ちや功績がうまく要点を拾って紹介されている印象。

テーマである枯れた技術の水平思考についてはバイオテクノロジー分野での実際の応用例が紹介されていて、僕はこの思考法は娯楽の分野にしか通用しないものだと思っていたけれども、上手くやれば科学技術や研究にも活かせるのでは、という気づきを得た。エピソードにあった「水平思考のためにどれだけ広い知識を持てるかが戦う力」という指摘には頷くばかり。あと "Brainbow" で検索したら綺麗だった(ネーミングセンスもよくてすばらしい)。

 

 

結局、『横井軍平ゲーム館』は本棚に見つからなかったのだけれど、代わりに本棚でふと目にとまった『反秀才論 (岩波現代文庫)』を読み返してみたらやっぱり面白かった。

本のタイトルにもある "反秀才" とは、本書の解説でも述べられているとおり「情熱(知的好奇心)が理性を上回るタイプ」と理解するとわかりやすい。あるいは別の人の言葉でいうと「秀才が『頭が速い』人であるのに対し、反秀才は『頭が強い』人」という説明がなされていて、本書はそうした反秀才と秀才たちにまつわるお話が著者の体験を交えて述べられている。横井軍平の繋がりでいえば、やはり解説で述べられている文章がわかりやすく、以下に引用してみる:

反秀才は蛹から蝶になる時期(羽化する最も弱い時期)が長く、その時期に才能を開花させるだけの暖かさと待ち続けてくれる辛抱強さをもった指導者が必要なのである。柘植先生の場合は幸いにして、そうした時期にハンス・マークという秀才がいて助けてくれたから、今も研究者として呼吸していられるという思いがある。だから、その恩を次の世代に返す義務があると考えている。「効率はよくないが、(反秀才を見つけだして)引き継いで次へ手渡していくその「重さ」をかんじないわけにゆかない」という。

――柘植俊一『反秀才論』(2000年、岩波現代文庫

 

横井軍平はかなり若い時期に「ウルトラハンド」で当てていて、ここでいう反秀才の定義には当てはまらないかもしれない。しかし秀才・反秀才は関係なしに、前の世代の目利きがあったからこそ活躍できた、というところは多いにあると思う。それは横井軍平でいえば山内社長であって、本当にヤバいのは山内社長の目利きではないか? というのはエピソードでも指摘されていた通り。

 

そしてふたたび引用箇所に戻ると、ここを読んでいて思うのは、僕自身もまた一人の力で呼吸してこられたわけでは決してなく、いろんな場面で前の世代に助けられてきた(それは自覚的なものだけでなく、無自覚なところでも)んだろうなあ……ということで、やはりその「重さ」を少なからず感じないわけにはいかない。

次の世代に対する恩返しは、同じように直接的な目利きで返せれば理想だれど、そうでなくても例えば物の本によればプロボノ活動をやりましょうとある。Researchatみたいなポッドキャストプロボノ活動のひとつのあり方だと思うしすごい。

 

ちなみに『反秀才論』の著者は研究に限らず音楽にも精通していて、エピソード64で述べられていた(そして僕も同じ思いを持っている)「音楽どうやって表現すればいいかわからない問題」に対する一つの解を与えてくれる。加えて柔道にも秀でていて、本書の随所に見られるような、身体的感覚を伴った思考にはいくばくかの興味と親和性がある。

そんな感じで個人的には好きなこの一冊もまた絶版であり、しかしマケプレで投げ売りされている学術的親和性から大学図書館あたりには残っていそう。エピローグには武士道の話がちらっと出てきて、一昨日からGhost of Tsushimaをプレイし始めた身からすると学びが深い。

 

反秀才論 (岩波現代文庫)

反秀才論 (岩波現代文庫)

  • 作者:柘植 俊一
  • 発売日: 2000/05/16
  • メディア: 文庫
 

 

*1:なおこの作品も枯れた技術の水平思考のひとつの好例であって、古き良きパズルゲームを素晴らしいプレイ体験のパッケージが包んでいる