はじめに
CSとCAEの狭間で縁起の良い論文を読むポッドキャストEngimonoを始めてからそろそろ3ヶ月が経つので、これまでの経緯や経過について振り返ってみたい。
Engimonoとは
冒頭で書いたとおり、Engimonoは「Computer-Science (CS) とComputer-Aided-Engineering (CAE) の狭間で縁起の良い論文を読むポッドキャスト」という体裁で、2021年1月より運用を開始した。
CSという単語は最近ではそこかしこで見かけるけど、ではCAEとは何かというと、「コンピュータによって支援された、製品の設計・製造や工程設計の事前検討などといったエンジニアリングの作業のこと1」を指す。 両者の狭間にあるのはcomputational engineering、日本語では計算工学2とかそういう分野になるのだと思うけれど、とにかくそのあたりに親和性を持ちながらCSの勉強をしたいと思ったのではじめた。
番組構成と命名
ポッドキャストで論文を読む、というスタイルはすでにいくつかの番組に見られる:よく見かける構成は、複数人パーソナリティで一方が先生役、もう一方が生徒役となって、先生が論文の内容を解説して生徒がそれに質問やコメントを返すというもの。 僕も当初はそのスタイルに倣おうと構想していた。 しかし残念なことに、気楽に誘ってお話しのできるポッドキャストおともだちが周りに見当たらず(!)、これは致し方なしと思って一人で始めることにした。 実際に一人でやってみると自分のペースでのんびりと配信できるので、これはこれで良い面があることに気付く。
そのような経緯でやむなく一人で話すことにしたので、"monologue" をタイトルに入れたい。かつ、略したときに語呂が良くなるといいなあ……と思いながら逆引き広辞苑を眺めていたところ「えんぎもの【縁起物】」がヒットし、これしかないと思って勢いで命名した。クラークの三法則は「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」と説くけれども、しかし魔法の成功には縁起の良い品物が必要不可欠なのである。
「お嬢様のお友達の魔法使いは、『材料はかなり集まったけど、この最大級の魔法が成功するには最大級の運が必要』だと言うんです。それで『幻想郷で最も縁起の良い物を持ってきて』と命じられたもので……」
「なんとも災難でしたね」
魔法の実行は六つの要素から成り立っている。それは、術者の『技量』、魂の性質である『気質』、道具や材料といった『物質』、行う場所である『空間』、実行したときの『時間』、そして最後に『運』である。このうち最後の運が占めるウエイトは最も重く、運さえ有れば他の要素はある程度カバーできるし、逆にこれが無ければどんな簡単な魔法でも失敗するのだ。
東方香霖堂 ~Curiosities of Lotus Asia.
- 作者:ZUN
- 発売日: 2010/09/30
- メディア: 単行本
ちなみに正式名称はEngineering Monologueであって3、Engineer's Monologueではない(Engineerを名乗れるほどではないので)。
コンセプト
収録前にある程度は文章で考えを固めておこう……とすると手癖でブログ記事が仕上がり、Show note代わりの解説記事はエピソードに先んじて出来上がった。 しかし最低限の録音技術が追いつくまでに時間を要してしまい、結果的に初回の解説記事を出したのは2021/1/5、初回のエピソード公開が2021/2/15と、約一ヶ月間のブランクが空いてしまった。さらに第2回では解説記事とエピソード公開までのあいだに約二ヶ月かかっている。
これは当初から意図したものではなく、しかしこの空白期間を逆手に取って「1ヶ月前の自分と対話する」というコンセプトとして、ひとりパーソナリティにある不足を補うことにした。 一ヶ月も経てば自分が何を書いたかは忘れているから新鮮な気持ちで記事を読めるし、半ば強制的に振り返りの機会を持つことにもつながって、内容を忘却から救うことにも一役買ってくれる(はず)。 記事を書いた当時は十分に書ききったと感じていても、時間をおいて眺めてみることで足りなかった内容や、視野の狭さに気づけたりするから面白い。
あとは音声メディアということで硬い話をすることよりも、もう少し雑談めいた内容を広く浅く話すことを意図している。 狭く深い話(論文自体が狭く深い話をするメディアではあるが)はブログの解説記事でやることにして、エピソードではそれとは逆の方向性を持たせて、単なる記事の読み上げにはせずに関連する話題を半ば意識的に散らしている。 これをやるのには論文の本筋から一旦離れたうえでネタを幅広く拾ってくる必要があって、自分にとってはそれなりに時間がかかってしまう。 その意味でも1ヶ月後の収録というのは理にかなっていた。
(現時点での)個人的な学びと課題
ポッドキャストは10年以上聴いてきたけれど、実施に配信する側に立ったことで得た学びはとても多かった。たとえば自分の話し方の良くない癖であるとか、ブログなどの文字媒体との違い、論文の読み方、論文を読む最新のツールセット (iPad & Apple Pencil & GoodNotes)、などなど。
そして学びと同時に課題も多い。具体的には以下:
- いまいち音質がよくならない。用意したマイクの使い方が悪いのか、そもそものUSBダイナミックマイクの限界なのか、それともポストのかけ方が良くないのか、とにかく自分的にはよろしくない音にしかならない。ゲーマーの余計な矜持を発揮せずにおとなしく鉄板のコンデンサーマイクYeti Blueにしておけばよかった……(半ば後悔)
- 諦めて代わりのヘッドセットを使いつつ、クライアントソフトのノイズキャンセリング機能におまかせして収録→Audacityでコンプレッサー(設定はよくわからないのでデフォルトのまま)だけ適用 という手順を今では踏んでいる。
- はじめはMisreading Chatのようなシーズン制を採用しようと構想していたが、途中で論文を読む時間が取れなくなりかなわなかった。他の作業との兼ね合いでエピソード公開は月1~2回が限度で、今はストックをゆっくりと消化している状態。スキマ時間で論文は読めても、記事にまとめるのにはある程度まとまった時間がないと難しい。
- Jekyllの使い方がちゃんとわかっていないので、公開サイトの設定は最低限になっている。例えばチャプターの頭出し機能などの追加のしようはあるものの、今の収録の尺である15分程度であれば要らない気がしないでもない。そもそも15分程度しか一人語りが保たない、というのもまた別の課題であり……4
論文を読んでいると、他人の論文ばかり読んでていいの?(自分では論文をかかないのか?)という内なる煽りが聴こえてくるので、それに耐え続けることが大事
謝辞(影響を受けたポッドキャスト)
このたび自分で収録するに至るまでに多くのポッドキャストを聴いてきたし、そしてそれらから受けた影響ははかり知れない。代表的な番組をここに記して謝意を表します。
- アキバ系!電脳空間カウボーイズZ
- 2010年代前半くらいまで聴いていたテック系ポッドキャスト。今でいうとbackspace.fmの雰囲気に近いかもしれない。番組の冒頭と終わりでボーカロイドが自作曲を歌う。個人的に好きだったオープニングはv.4.0(Images and Codesに収録)。Engimonoの冒頭と終わりで結月ゆかりさんのナレーションが入るのは、この番組にインスパイアされている。僕は音楽はできないので、代わりにボイスロイドに喋ってもらうことにした。
- VOCALOID聴き専ラジオ
- 同じく2010年代前半~半ばくらいまで聴いていたはず。名前の通りボーカロイドの曲の作り手ではなく、聴き専がボカロ曲について話す(ときどき曲の作り手もゲストに出演する)。電脳空間カウボーイズと併せて、個人的なポッドキャストの原体験にはボーカロイドがある。パーソナリティの女性の喋りがうまかったことを覚えている。
- yatteiki.fm
- Misreading Chat
- CSの論文を読むポッドキャスト。Engimonoの原点であり目標。
- Reading NLP Ninja
- Interaxion Podcast
- Researchat.fm
- バイオロジーの研究者3人がアツいと感じていることを自由に話すポッドキャスト。昨年末に開催されたResearchatLT vol.1が無ければこのアカウントは声を得ることはなく、ありがたいコメントをいただくこともなかっただろうし、ポッドキャストを始めることもなかった。
おわりに
そんな感じでこのブログの筆者が勉強するだけのポッドキャストですが、よろしければお聴きください。ツイッターでなくとも、匿名でのご感想も(しずかに)受け付けていますので、よろしくね
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これが英語として正しいかどうかは、また別問題である↩
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ちょうど同時期に公開されたResearchatエピソード98あたりを聴いていると、sohさん一人でよくあれだけ長時間話せるなあ…とつくづく思ってしまう↩