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KYOCERA TECHNOLOGY COLLEGEを気ままにおさらい (3)

はじめに

前回記事の続き、第3週目。前回記事はこちら:

tl.hateblo.jp

  

KYOCERA TECHNOLOGY COLLEGE 8月の講師は理化学研究所 計算科学研究センター長の松岡聡先生、今回のテーマは「富岳によって変わる未来」ということで、現代社会のさまざまな課題にたいする富岳の応用事例が紹介されている。

www.youtube.com

 

以降は、この放送回を聴いて考えた気ままなおさらい。

 

 

民間企業がスーパーコンピューターを持つ時代

冒頭で述べられていたマイクロソフトスーパーコンピューター、僕は寡聞にして知らなかったので少し調べてみた。番組で言われていたスーパーコンピューターの世界ランキングTop5に入るくらいの性能、という情報から例のTOP500のサイトを覗いてみても見当たらず、どうも詳しいスペックは公開していない様子。

gigazine.net

 

マイクロソフトが公式ブログで発表した内容はこちら、そしてこの発表内容をもう少し深堀りした記事が見つかった。ちなみにこの記事の発行元であるHPCwireではポッドキャストもやっていて、HPC(High Performance Computingの略)に関する最新ニュースを定期的に音声で配信してくれるのでありがたい。

www.hpcwire.com

 

 

スーパーコンピューター白書と9つの重点課題

番組では富岳を作るときに白書を作ったということが語られていて、この白書が一般に公開されているものなのかよくわからないけど、あまねく関係者に広くヒアリングしている(というか、執筆に加わってもらっている)となると、このあたりが該当しそう。しかしこの資料めちゃくちゃ面白いなあ……もっと早くに読んでおきたかった。

hpci-aplfs.r-ccs.riken.jp

 

世の中の数ある課題に対して、ブレークスルーを起こすために必要なコンピューティングパワーはどれくらいか、という問いに答えを出すのは難しい。計算機ユーザーからすれば計算リソースはあればあるだけ食い尽くすことに結局はなるので(スーパーコンピューターパーキンソンの法則)、あればあるだけ良いのだけれど、しかしそれは現実的には不可能だ。どこかで諦めざるを得ないけれども、それでも利用可能なリソースで手がけることができ、答えを出せるよいイシューとはなにかを、つねに問い続ける必要がある。

どれほどカギとなる問いであっても、「答えを出せないもの」はよいイシューとは言えないのだ。「答えを出せる範囲でもっともインパクトのある問い」こそが意味のあるイシューとなる。 (p. 72)

安宅和人イシューからはじめよ ― 知的生産の「シンプルな本質」英治出版

 

そしてこの白書に基づいて、「富岳」では9つの重点課題を設定しているとのことで、番組では「健康長寿社会」「環境・災害」「エネルギー」「ものづくり」の4つの項目が挙げられていた。これら4つの項目については以下の計算科学研究センターのウェブサイトを見てもらうとわかる通り、9つの重点課題を束ねる大項目に相当している。なお「基礎科学の発展」という大項目が番組で言及されていなかったように思うけど、基礎科学ももちろん大事なことです。

www.r-ccs.riken.jp

 

 

「富岳」の社会貢献

当初の運用スケジュールではまだ準備中だったはずが、社会的な要請を受けて予定を大幅に前倒しして稼働開始した「富岳」*1、これまでどのような成果を挙げてきたかについては理化学研究所 計算科学研究センターのウェブサイトが詳しい。

www.r-ccs.riken.jp

 

どれも重要な研究課題であることは論を俟たないのだけれど、授業に参加していた8歳(最年少)のコバヤシさんも知っていたという意味では、ウイルス飛沫の飛散シミュレーションは視覚的なわかりやすさもあいまって、与えたインパクトが大きかったと感じている。

正直なところこの飛散のシミュレーション動画を見たときに、これはデモンストレーションとしてやっているのだろうな、という印象をはじめは持ってしまっていた。境界条件もそんなに厳密ではないし、というか厳密には定まらないだろうから、このシミュレーション結果からどれくらいのことが言えるのだろうと思っていたけれど、発表資料や講演動画にちゃんと目を通してみて、こういうシミュレーションもありなのだなと合点がいった。

コロナ禍から一刻も早く立ち直るうえで、現時点でなすべきは右に行くか、それとも左に行くかという大枠の判断であって、その判断材料となる情報を(多少不正確でもいいから)いま欲しい。けれど現実世界で飛散の実験をするには時間もコストもかかるし、なによりウイルスの飛沫は人命にも関わるから、実際に実験をやるのにはたいへんな困難がある。それをCyber-physical systemとして、莫大な計算リソースをもっていま提供する、それができるのがスーパーコンピューター「富岳」であり、かつその上で走る飛散シミュレーションアプリなのだろう。これはまさに「富岳」でなければできなかったのだろうなと思うし、その他のタイムリーな研究課題である創薬や社会的影響もまたしかり。

 

おわりに

もうひとつ書けそうなネタがあったのだけれど、なんかいい感じの雰囲気で終われそうなのと、疲れたのでこのへんでおしまい。

 

いま白詰草話っていう20年くらい前のゲームをやっていて、「富岳」では今から40年以上前のFORTRAN 77のプログラムが(効率とかはともかく)余裕で走るんだろうけれど、我が家のWindows10も約20年前のアプリを平然と動かしてくれていて、ユーザーにとって後方互換性はありがたいなあと思う次第。■

 

 

第四回目に続く:

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