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親方Project『ワンストップ目標設定』に寄稿した

はじめにお知らせ

親方Projectさんより新刊合同誌『ワンストップ目標設定』が出ます。頒布の詳細は技術書典7の公式サイトより、以下の通り。

日時:2019.09.22 (Sun.)

場所:池袋サンシャインシティ 展示ホールC/D (文化会館ビル2/3F)

サークルスペース:【お41C】親方Project (3F)

 

親方Projectには前著『ワンストップPodcast』から引き続きお世話になり、しかしアンケート+αで参加させていただいた前回とは違って、今回は第4章、ざっくり9000字ほどを寄稿させていただいた。かつて書いた『ワンストップPodcast』の紹介記事*1では「次はひとりで一章分作れるくらいに頑張りたい」などと調子の良いことを書いていたところ、上手くボールを投げてもらえたので返すことができた。当時の約束はこれで果たせたので、とりあえず一安心ですね。

 

techbookfest.org

 

本編のあとの付録、appendixにでも入れておいてもらえればとお送りした原稿は、最終的な章立てを開けてみれば前半章に配置されていた(ありがたい)。この記事では本書の紹介と、執筆から寄稿までにあった個人的な体験を語る。なおこの記事で書かれている内容は、体験はともかく見解はすべて個人的なものであって、本書の著者全員の総意ではないこと、あらかじめご注意ください。

 

 

どんな本か

技術書典6で無料配布された『ワンストップ目標設定の技術(お試し版)』が完全版となったもの。タイトルにある通り、目標設定の技術を幅広く取り扱った本になっている。お試し版では5人30ページの原稿だったけれども、今回の完全版では著者26人、ページ数160ページと大幅な改訂を遂げている。お試し版の発行の経緯については、『SIerのSEからWEB系エンジニアに転職したんだが楽しくて仕方がないラジオ』、通称しがないラジオのsp.59でも語られているので参考になる。

 

shiganai.org

 

本書第1章ではこの本が出来上がるまでの具体的な経緯が書かれていて、その終わりには、

目標設定及びタイムマネジメントというそれぞれ汎用的ではありますが抽象的、あるいは漠然としたテーマではありますが、お隣の人はどうしているんだろうといった観点で参考にしていただければ幸いです。

とある。ここの部分はとても良いなと感じていて、まさにこのお隣の人はどうしているんだろうといった感じで読んでもらえればと思う。

 

本書が取り扱っている目標やその周辺の話題というのは、わりとセンシティブなものだと思っていて、もしお隣に気心の知れた相手がいるならば、その人に尋ねるのでも良いだろう。しかしそうではない人もいて、周りには心理的安全性の低い場しか存在しない、あるいは目標というテーマは無意識の上下関係を生みがちで、諭し諭されるのを避けるがゆえに、他人とは対面で話したくない向きもあるかもしれない。しかし本であれば、諭されることはあってもそれに応じるかどうかは読み手に委ねられているし、読み進めるのも止めるのも自由である。

 

そのうえで本書は是非読み進めてもらいたいと思っていて、それは著者の多くが技術に近しい人たち、かつ技術系のイベントで会いに行けるエンジニアであって、そうした属性はおそらく読み手とも親和性があるだろうと考えているからである。目標というのは仕事の場面で語られる一方で、より一般化すれば生き方やありたい姿という個々人の想いにも紐付いてくるものだと思っている。そうしたテーマを扱うにあたっては、書き手と読み手の距離が近いことはただ利点になるし、それは商業誌ではない同人誌としての本書の特長に挙げておきたい。

 

 

なんで書いたか

冒頭でも触れたとおり、『ワンストップPodcast』の紹介記事での約束としての位置づけがある。ただし紹介記事では触れていないのだけど、実は『ワンストップPodcast』で追加で章を立てられないかと構想していて、けれど上手くいかなかった、という個人的な経験が裏にあった。当時、『ワンストップPodcast』の第1章「Podcastを聴こう!」に続く形での「Podcastを聴き続けよう」という章、音声メディアの特性から聴き続けるためのノウハウの話までを盛り込もうとしていて、しかし実際に書いてみるとどうもうまく書けなかった。

 

それは書くネタがそもそも足りていないこと、そしてそれを組み上げるための方法論も自分の中に無かったからで、5000字程度までなら頭の中で考えて・アウトライナーで出力して完結できても、それ以上になると脳のメモリ領域だけでは片付かない、もう少し土台をしっかりと作る必要がある、という極めて個人的な気づきを得ていた(最終的に、ここで書こうとしていた事柄は章レベルまで膨らませることはできず、第1章の最後の節に収めてもらって事なきを得た)。今回はそうした土台作りも踏まえたうえでひとつ書かせてもらおう、と考えた。


あとは目標設定の本ということで、わりと自己啓発的な方向性の話が出てくるのだろうと予想していて、それはそれでありなのだけど、でももう少し地に足のついた話、普段の自分から延長していくものがあっても良いよね、というこじらせた思いがあり、別の視点も入れられないだろうか、と思ったからでもある。本書に寄稿するにあたって『目標の研究』という本を読んだのだけれど、そこで参照されている『7つの習慣』にみられる "目的を持って始める" と、『仕事は楽しいかね?』にみられる "今とは違う自分になる" のふたつの項目にあって、僕は後者を述べることをしたいと考えた。

 

「目標」の研究

「目標」の研究

 

 

まあ実際に蓋を開けてみると、たしかにトップダウン式の目標設定の手法は書かれている一方で、「目標は本当に必要でしょうか?」といった議論、あるいはできることからこなしていく、日々の生活を上手くやるといったボトムアップの話題は他の著者も書いていて、僕の懸念は問題にならなかった。加えて指摘しておくべきこととして、本書では完全版になるにあたってタイムマネジメントに関する内容も追加されたおかげで、日常の時間管理に絡めた話題も数多く提供されている。このように、目標設定にあたって上から下までを地続きでカバーしているところも、本書の良いところのひとつといえる。

 

 

どうやって書いたか

寄稿でも触れているKJ法をベースにやってみた。詳細は西尾泰和の著書『エンジニアの知的生産術』か、原典である川喜田二郎の『発想法』を参考にしてほしい。僕は前者で読んだ。

 

 

執筆の大体のスケジュール感は以下の通り。

  • 8/4 おやかたさんのCall for Papersを読む。目標設定そのものについては書けなさそうだけど、周辺技術の話ならできるだろうか、と思いあたる。

    note.mu

  • 8/-10 ラベルとしての付箋でネタを書き出し続ける。全部で80枚くらい集まった。
  • 8/11 KJ法でラベル拡げ&表札作り。付箋を並べてあれこれ入れ替えるのに、少し前に買っておいたバタフライボードPro A3が役立った。ここで大体の流れができてネタが揃う。
  • 8/-19 少しずつ書き足し。後半パートがほぼ完成、前半部分はネタが揃い、結論の落としどころが見えた時点で、おやかたさんに参加の連絡。見る前に飛べない
  • 8/-25 書き足しつつ校正。
  • 8/25 原稿寄稿。

 

そんな感じで3週間ほどかけて執筆した。もちろんフルタイムではなく、休み休みでやっています。

今回はお盆の閑散期で少し楽だったけど、いつもの繁忙期であれば一ヶ月くらいを執筆に見ておいても悪くはなさそう。あとはラベル集めの時点では平日のスキマ時間でもいけるけど、ラベル拡げ&表札作りと、続く実際の文章の組み立てはKJ法での設計図があったとしても細切れ時間ではかなわなくて、まとまった時間が必要だった。土日は大事。

 

 

体験

何を書かないか

スティーブ・ジョブズの名言*2を持ち出すまでもなく、その追体験。当初の構想では、「目標設定以前の話」「目標設定の話」「目標設定以後の話」と3パートにするつもりが、目標設定のところがさきに述べた『「目標」の研究』の焼き直しになってしまい、であれば自分が書くものではない、と思ったので落とした。あとは執筆ネタとして集めていた森博嗣が毎日なにかしている話、森近霖之助の日記が真空管アンプの作用をする話、その他諸々は、入れたかったけど話の本筋から外れるのでやむなく落とした。それもあって、作ったラベルの最終的な歩留まりは半分くらい。あまり効率が良くない…

 

 

初速が失われる

書いているうちに、「これ本当に面白いのか…?」となってくる現象。これまでは1日2日かければ出来上がるくらいの分量しか書いてこなかったので、こうした疑念が浮かんでくる前に投稿してさっさと終わりにしていたのだけど、分量が多くなるとそうはいかないことがわかった。初速が失われたあとのモチベーションの保ち方、長期戦への対策は課題のひとつであって、今回はKJ法で設計図は出来上がっていたので、あとは手を動かすだけ、という状況がハードルを下げてくれた。

 

 

本向きの執筆

僕は基本的に段落分けの文章、文字だけしか書かず図を入れないので、ブログ以上に文字に依存する媒体である本とは相性が良さそうだとわかった。ブログでは文章の途中に図を挟めという無言の圧を感じることがあるけど、本であればそのようなことはない。そもそもブログをはじめたのも論文の執筆、一切の修飾を外してプレーンに書くという練習のためだった(ような気がする)ので、その方向性に合致した媒体でうまくやれそう、という手応えがある。

 

 

おわりに:おやかた合同誌のすすめ

親方Projectでは次の本の企画もすでに走り始めています:

note.mu


おやかた合同誌、今回の本もそうだけど、誰もが一家言あるテーマで寄稿しやすいし、速を保ちつつ本としての重みも両立されている。何か書きたいことはあってもリソース的な事情から単著は厳しい、そうした人にとって(僕もその一人だ)スポット的に参加させてもらえるのはとてもありがたい。

 

他の細かい/大変なところはこちらでやりますので、本文を書くだけで著者としての一歩が踏み出せます。あなたの参加をお待ちしております。」とは、本書あとがきにあるおやかた編集長の言だけど、("大変なところ" の大変さを想像しつつも)この通り書くことに集中させてもらえるのは、この合同誌の素晴らしいところ。ハードルは下がるところまで下がっているので、あとは著者としての第一歩目を、いち執筆者の立場からこの記事を通してプッシュできれば幸いです。

 

以上、ワンストップ目標設定完全版は頂上を目指すワンストップちゃんが目印! 表紙イラストはいつもの湊川あい (@llminatoll) さん。どうぞよろしくね

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