雛形書庫

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『ワンストップPodcast』――あなたの声を待ってます

はじめにお知らせ

親方Projectさんより新刊合同誌『ワンストップPodcast』が出ます。頒布の詳細は技術書同人誌博覧会の公式サイトより、以下の通り。

日時:2019.07.27(Sat.) 11:00-17:00

場所:大田区産業プラザPiO

サークルスペース:【E-05】親方Project

 

 
すでにいくつかの情報が公開されていて、にんげんがへたエフエムの最新エピソード、本書の表紙イラストを担当した湊川あい (@llminatoll) さんによる宣伝記事、そして頒布に先立って収録されたおやかたam特別編を聴くことができるので、本書の内容や雰囲気を知るうえで参考にされたい。

 

ningengaheta.me

 

note.mu

 

anchor.fm

 

僕は第1章の本文の一部と、付録にあるPodcastリスナー向けアンケートを寄稿した。それらは割合でいえば、100ページ以上ある本書のごく数ページに過ぎないのだけれど、ご好意で執筆陣のSlackチャンネルに加えていただき、本書が出来上がっていく様子を間近で見ることができた。上で引用した紹介ツイートにもあるように、Podcastに関する多くの知見が詰まった本になっている。これからPodcastを始めたい人に限らず、Podcastが好きな人にはぜひ手に取っていただけると良いなと思う。

 

 

本の章立てと位置付け

本書の章立ては以下の通り。第1章がPodcastを聴く話、そして第2章以降がPodcastを始めて、続けていく話になっている:

はじめに

第1章 Podcastを聴こう!

第2章 Podcastを始めよう!

第3章 より良いPodcastを作るために

第4章 Podcastを続けよう

第5章 Podcastをいろいろなアウトプットにつなげよう

付録A Podcastリスナーさんへのアンケート

付録B Podcasterさんへのアンケート

付録C Podcast特別編

 

残念ながら僕はPodcastリスナーであってPodcasterではなかったから、「第1章 Podcastを聴こう!」のところにわずかなコントリビューションを作るにとどまっていて、第2章以降の執筆には関わっていない。しかしそうした立場から本書ができていく様子を見ていて感じたのは、この本は工学でいうところのハンドブックに近く、その意味でとても技術書らしい本だなということである。ここでいうハンドブックとは便覧とも称されるもの、ウィキペディアの記事*1よりかは「ハンドブック 技術」とか「ハンドブック 工学」とgoogle検索したほうがそのニュアンスを掴みやすく、ある分野について編集者のもとに複数の著者が集まって執筆し、その分野が持つ領域をもれなくカバーするスタイルの書籍である。

 

本書もまた複数のPodcasterが著者として執筆に加わっていて、それはPodcastに関する幅広い技術領域と情報の網羅という形で結実している。僕の知る限り、本書はPodcastについて現時点で最も広く、かつ最も深い体系化(しかも日本語!)である。かつ、多くの視点を得たことが一人だけでの執筆ではなしえない、多様性を持ったPodcast世界観の提供にも繋がっている。それは技術的な側面でもそうだし、そしてそれぞれの執筆者が持っている、Podcastに対する思いの面からもいえることである。

 

 

内容:Podcastの技術

『ワンストップPodcast』というタイトル、あるいは上で紹介した章立てにも見られる通り、この本一冊でPodcastを聴く・始める・続けるのすべてのステージをカバーするものになっている。豪華執筆陣とでもいうべきPodcasterたちを挙げていくと、Podcastを聴くうえでの初歩的な情報、そして始めるにあたっての収録機材と編集の知見は、前著『はじめる技術 つづける技術』*2 でも始めたい人を応援していたaozora.fmFORTE (@FORTEgp05) さん が述べている。人数によって変わってくる番組の方針の決め方、そして話の質を上げる方法について、おしごとamをはじめとして数多くの番組を配信しているKANE (@higuyume) さんがその知見を紹介している。Podcastにおいてゲストを呼ぶことは必ずしも銀の弾丸にあらず、そこではファシリテーションの技術が重要になるということは、しがないラジオで多くの(本当に多くの)ゲストを呼んできたgami (@jumpei_ikegami) さんとzuckey (@zuckey_17) さんが語っている。そして優れた番組進行の裏に優れたアジェンダあり、ということは、にんげんがへたエフエムakazunoma (@akazunoma) さんの寄稿パートを読むとよくわかる。もちろん内容はこれですべてではないので、その詳細は実際に手に取って確認されたい。

 

本書ではこうした「こうすることで上手くいった」というタイプの技術だけではなく、「ここに難しさがある(が、こう工夫した/している)」という領域についても触れられている。Tech系フリーランスが選ぶ最近の気になるトピックスS(エス) (@goodengineer7) さんからは、ニュース系Podcastの難しさ、そして春のポッドキャストまつり2019を開催したときの知見が具体的に紹介されている。「出来ること」を技術として示すのはもちろん意義のあることだけれど、現時点では難しさがある、すなわち「ここまでは出来るが、ここからは(まだ)出来ない」といった境界や線引きを示すことも、技術にパッケージングしていくうえでのひとつの責務だと思っているし、価値のある行為だと思う(ちなみに僕の寄稿でもその点を意識して書いている)。また、おぼえられたいラジオを配信しているみずりゅ (@MzRyuKa) さんからは、一人パーソナリティでPodcastを始めたときの難しさがコラムで共有されている。Podcastをやりたくなったときに最もお手軽なのは自分ひとりで始めることだけど、そこでも本書を通じて先人の知恵が生きてくるだろう。

 

多くの執筆者が関わっているだけあって、文体や内容に各人(各番組)の個性が感じられる一方、みんなでばらばらなことを書いていないか、と懸念する向きもあるかもしれない。しかし発起人であり編集のおやかた (@oyakata2438) さんの効果的なディレクション、あるいは優れた手腕でもって、本書は「聴く」から「続ける」に至るまで一本筋の通った内容となっている。執筆陣を継続的に鼓舞しつつも、締切が近づく中で章立てを組み上げ・体裁を整えていく様子は見ていて本当にしびれたし、僕もその熱量にあてられて、微力ながら誤字脱字のチェックに協力させていただいた。それは執筆から少し離れているぶん客観的に見られること、そしてブログでこれまで書いてきた経験が活かせるだろうという目論見もあったけれど、それ以上にコンテンツとしてすごく良いものが揃っているのに、つまらないミスでケチがついてしまうのは本当にもったいないという思いがあったからである。

 

 

内容:Podcastへの思い

そしてもう一つ強調しておきたいのが、本書がハンドブックとしての実利的な側面だけではなく、Podcastが好きな人達の思いが乗った・熱量のあるものになっているということである。第5章には、Podcastをきっかけに少しでもアウトプットを始めてみませんか、というおやかたさんの思いがある。この章を補強する資料として、Developers Summit 2019での登壇資料「アウトプットのすすめ」が参考になる(なおこの資料の後半ではKANEさんの登壇資料「Podcastパーソナリティになる意味」もあり、こちらもKANEさんの執筆パートの裏側にある考えを知ることができる)。

 

speakerdeck.com

 

続く付録のアンケートではPodcastリスナーとPodcaster各人の思想、あるいは価値観に触れることができる。いわしまん (@iwasiman) さんの回答ではPodcastに「他者と感想を共有する楽しみ」があること、そして「他者とのつながりを生むツール」であることが指摘されていて、僕自身にはそのような視点が皆無であったから(詳しくは本書、僕のアンケート回答を見られたい)、新鮮な体験があった。Podcaster向けのアンケートでは、にんげんがへたエフエムのお二方のエモーティブな回答がすごく好きで、僕は今回のアンケートをきっかけにこの番組を知ったのだけれど、もっと早くに知っていたかった…という気持ちになった。

 

 

執筆から得られたもの

ここからは少し個人的なお話。

 

技術的な部分ではSlackとGithubの基本的な使い方、あとはちょっとしたDockerとRe:VIEWの作法を知ることができた。普段はエンジニア的な職域にいないのでやりとりは基本的に電話かメール、なのでSlackをまともに運用したことがなく、参加させていただいた当初はかなり手探り状態でやっていた、というのが本当のところだった。けれど今回のコミュニケーションを通じて、チャットツールの良さが身をもって体験できたし、逆にこれまでのメールでいかに時間的/心理的コストを消費していたかを思い知らされた。

 

Githubについては、Gitはこれまで使っていても一人開発だったので、複数人でPull Requestを出しながら開発(執筆)していく、という環境が今回初めてだった。Pull Requestは最初はおそるおそる、という感じでやっていて、でも慣れてからはこの仕組みで効率的に開発が進められるということが理解できた。ただしブランチを生やしたあとのrebaseは(以前試したら痛い目にあったので)やりたくなかったので、rebaseが発生しないよう、コミットからのプルリクが結構せわしないものになっていたのが個人的な残る課題。

 

複数人でのコミュニケーションでいえば、Slackチャンネルでのざっくばらんなやりとりを見ていて、あとはちょうどこの記事を読んだこともあって、自分のコミュニケーションがやや利害調整に寄っていたことに気付けた。

mirai.doda.jp

あまり世代間論争にはしたくないのですが、40代以上の世代には「コミュニケーション=利害調整」と捉える人が多いですね。情報の流れをコントロールして、組織を円滑に回そうとする。その結果、意図的に情報を隠したり、情報格差をつくったりします。つまりコミュニケーションは人心掌握、説得、コントロールの術であって、正しい情報を伝えることがゴールではないのです。

 

ですが、それ以下の若い世代では「コミュニケーション=課題解決」と捉えている人が多い。今は、一人では解決できない、複雑で、答えのない問題を解かないといけない場面が多くあります。課題解決につながる正しい情報が何かは誰にも分からなくて、全部が重要だし、全部が重要じゃないかもしれない。だからこそ、「課題解決のためには情報を共有すべき」という感覚を、彼らは持っているように思います。(強調原文ママ

 

普段の仕事で上の世代を相手にやっているようなコミュニケーションではなく、同世代のエンジニアであれば普通にやっているであろうコミュニケーション、引用元で言われている「課題解決のためには情報を共有すべき」という感覚のあり方を学べたのは、自分にとってすごく良いことだった。

 

そしてこれまで一人で書いてきた僕にとって、最近読んだカイゼン・ジャーニーで見つけた一節、この言わんとするところは今回の執筆への参加、カイゼン・ジャーニー風に言えば "越境" をもって腹落ちしたことでもある。今回の執筆は第1章のちょっとだけだったけど、次はひとりで一章分作れるくらいに頑張りたいですね。

自分の経験や思考だけだと、自分自身が限界になる。でも、他人の経験や思考を活かす仕組みにすれば、自分の限界は超えられる。

――市谷聡啓、新井剛『カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで』翔泳社

一人でやっているうちは一人の能力や経験が限界になってしまう。チームで仕事をすることの意義を、ようやく僕は理解し始めていた。

――市谷聡啓、新井剛『カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで』翔泳社

 

 

おわりに

個人的な話はこのあたりにして、これまで書いてきた通り、本書はPodcastについて広く、かつ深い知見を詰め込んだものであると同時に、技術と思いの両輪で駆動し・執筆された本である。この本がPodcastを知るきっかけ、そして始めるきっかけになれば、微力ながら執筆に加わった一人としてこんなに嬉しいことはない。

 

そして、執筆するとフィードバックをもらいたくなるというもの。読んでいただいた感想は#ワンストップPodcastハッシュタグをつけたつぶやきで、そしてアウトプットは第一歩目としてのPodcastで、あなたの声が聴けるのを待っています。

 

以上、ワンストップちゃんの表紙が目印! よろしくね

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