雛形書庫

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yagitch『継続的にアウトプットする技術』を読んだ

技術書典6の新刊を探していてBOOTHで見つけたので買ってみた。さきに読んだ『はじめる技術 つづける技術』*1は始めることと続けることの両方をカバーしていたけど、本書は続けることだけを扱っていて、しかもその対象はアウトプットにフォーカスしている。

 

 

一読して感じられるのはとても読みやすいということ、それは章立ての巧さに由来している。まず第1章ではアウトプットのメリット、アウトプットをするとこんなにいいことがありますということが述べられていて、ではどんな質のアウトプットが好ましいのかについては第2章で語られる。第2章の結論としては「細く長く」が良いということに(根拠となる文献を示しながら)なるんだけど、ではそのようにするためには、すなわち継続するためにはどうすればいいのかとなる。これを受けて第3章と第4章では継続する技術が説明されていて、ただし第3章では周囲の環境の話、第4章では自分自身の話というふうにきれいに切り分けがなされていてわかりやすい。そして最後の第5章では、継続していくにあたって欠くことのできない健康や精神衛生をどうやって保っていくかという話が展開される。読みすすめていて無理のない構成になっていて、このことは読者の理解を容易にしてくれている。

 

あとは読んでいて納得感があるのが良い。「どれもそれなりの根拠があり、わたし自身が納得した内容のみを選んで触れています (p. 3)」とあるように、紹介される内容はどれも出典を伴っている。さすがに出典まで遡って科学的かどうかまでは検証していないけれど、それでも突拍子もないことは出てこない。かつ、著者自身のフィルターを通ってきていることもあって、そこにあるのは本書の筆致にもみられるような穏やかなものになっている。

 

著者自身のフィルターといえば、巻末の参考資料に挙げられている書籍については僕も何冊か読んでいて、たとえば『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』『知的生活の設計―――「10年後の自分」を支える83の戦略 *2』『集中力はいらない』『エンジニアの知的生産術』といったあたり。では本書がそれらの二番煎じかというとそうではなくて、本書は文章によるアウトプットを軸にしてそれらのエッセンスを切り出し・凝縮したものになっている。すでに見知った内容であっても、軸を持つ・あるいは切り口を変えることで新鮮さ、新たな価値が生まれるというのは、本書を読んで得られた知見でもある。何より僕自身が文章でアウトプットする側の人間なので、読んでそのまま参考になる部分が多くあった。

 

本書を読むことで得られた一番良かった気付きは、第4章にある「資料はどんどん買う」というところ。メタ的な話ではあるけれども、以下の文章がとりわけ印象に残っている:

経済力が許すのであれば多少買いすぎなくらい買っておくとストレスなくアウトプットすることができます。1000円〜2000円の本から自分にとっての気付きが生まれると思えば安いものです。(p. 34)

 

言われてみるとなるほどと思う。損失回避バイアス*3が知らない間に働いていたことを自覚する。情報や思想に触れるのに、読書ほどコスパの良いものは無いことを改めて思い出す*4。 


まえがきにある「本書は完成された理論書ではなくあくまでTips集です (p. 3)」という記述、またあとがきにも「(参考になった情報があったなら)早速、実践です (p. 42)」とあるように、本書は読者の実践を伴ってはじめて目的を達成されるものである。僕は本書に勧められたとおり、「気軽なアウトプット (p. 34)」を試してみる。そして著者の言うように、「継続的なアウトプットは長い旅 (p. 42)」でもある。個人の思いを含みつつも、しかし科学に支えられた、地図としての本書を携えるのも良いだろう。■