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ごりゅごcast『Tak.さんにインタビュー【アウトラインプロセッシング入門】』を聴いた

最近はまっているポッドキャストごりゅごcastの久々のインタビュー回を聴いたので、その感想。

 

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はじめに

来月に開催されるらしいアウトライン・プロセッシング入門セミナーの導入編といった感じのインタビュー回。アウトラインプロセッシングの前に、まずアウトライナーというのは、Microsoft Wordとかのいわゆるワープロソフトとは少し毛色の異なる文章作成用ソフトウェアのこと。そしてそのアウトライナーを使って何かしましょうというのが、表題にあるアウトラインプロセッシングである。

 

僕は普段の文章、それはこのブログにとどまらず、報告書や論文に至るまでのほぼすべてをアウトライナーで書いているんだけど、このツールは単にその本来の用途、文章を組み立てるというだけではなく、思考を整理するのにも有効であるという実感を得てだいぶ経つ。しかし今回のintervieweeであるTak.さんはアウトライナーに30年、1万時間以上を費やしているという猛者であって、その著書『アウトライン・プロセッシングLIFE』によれば、アウトライナー生活と人生を描くことさえも可能である様子が示されている。その壮大さ、あるいは途方もない時間に裏付けられた彼の言葉からは、日々アウトライナーを使うひとりでありながらも、なるほどなと考えさせられるところが数多くあった。

 

 

縦に動くアウトライナーと横につながるScrapbox

僕もアウトライナーとともにScrapboxも使っていて*1、これは便利だという実感はあったものの、アウトライナーとどう違うのかについては適切に述べる言葉を持たなかった。しかし今回のインタビューにあった縦と横の概念は、両者の違いをうまく説明してくれそうな気がしている。自身の経験としてもアウトライナーに知識を蓄積することはなく、またScrapboxの中で文章を組み立てることは難しいなという実感がある(単にアウトライナーに慣れすぎているだけかも)。

 

使うツールを一本化できると何かしら理想的な雰囲気があるけれど、アウトライナーScrapboxに関していえばどちらかに一本化するのではなく、それぞれの特長を踏まえながら両者で使い分けていけると良い。

 

 

アウトラインは文章のタスクリスト

これは個人的にすごくしっくりくる主張で、おそらくアウトライナーを使うほどにこの傾向が助長されていくのだと思うのだけど、こうした(=小説以外の)文章って結局は書きたい・書くべき情報を羅列してあるにすぎないと考えるようになった。

 

文章を書くスピードを格段に速くするたった1つの秘訣は、『どう書くか?』ではなく『何を書くか?』に集中することです。」とは『10倍速く書ける 超スピード文章術』の表紙裏にある箴言だけど、文章のキモはその素材にあるというのがこの本の主張。文章を書くステップとして、素材をひたすら集める→素材を読みやすい順番に組み立てる という一連の流れが紹介されている。ここで、"素材をひたすら集める" のはTODOリストのような箇条書きでも良いとしても、"素材を読みやすい順番に組み立てる" のは、いざやってみるとそこまで容易ではない。本書ではそこで「全素材を『目に見える状態』にする」方法が述べられているのだけど、しかしアウトライナーはTODOリストのスクラップ・アンド・ビルド、そして文章への組み立てを強力に推進してくれるツールである(本書では残念ながら触れられていないが)。

 

アウトライナーという名称からはトップダウンのやり方、まず概形を作り上げ、その後で細部を詰めていくツールだと思われるかもしれない。もちろんその用途でも使うことは出来るけれど、しかし文章の作成とは結局、素材をひたすら集める→素材を読みやすい順番に組み立てる というようなボトムアップのやり方を取るものなのだと思う。具体的な内容を並べ、あるものは採用し・あるものは切り捨て、ロジックを考えて順序を入れ替え、そうして組み上げた一文は、複数束ねてパラグラフとすることで抽象化する。そして最終的に、パラグラフを並べてひとつの方向性を持たせる、そうした作り方を容易にしてくれるのがアウトライナーといえる。

 

 

アウトライナーで文章を書くこと自体が発想法

具体的な内容はポッドキャストに譲るとして、聴きながらTak.さんの著書である『アウトライン・プロセッシング入門』を読み返していたら、とても興味深い主張に予期せず出くわして、以前に読んだときの記憶にはなかったので驚く。

 

文章を書くということは「構成・流れを組み立てる」ことと「個別のフレーズを考え、滑らかにつなぐ」ことという、まったく異なる作業を同時にやっているわけです。これは頭にとってはかなりの負荷です。

 

すごく説得力のある構成を思いついたけど、うまいフレーズ(文章)が浮かばず悩んでいるうちに流れがわからなくなる。逆にとても素敵なフレーズが頭に浮かんだけれど、つなぎ合わせてみたら説得力がなく、ああでもないこうでもないと考えているうちにフレーズが色あせて見えてくる。そんなことはないでしょうか(私はよくあります)。異なる二つの作業を同時にやろうとすることの難しさです。

 

そう考えると、「シェイク」は全体の流れを考えることとフレーズを考えることを意図的に分離して、頭の負荷を減らしているとも言えるのです。

 

"構成を考えること" と "フレーズを考えること" は分離すべき。これと同じ主張を、僕はどこで手に入れたのか忘れてしまったけれど、「ロジックとビューを分離する」という箴言として携えていた。

 

通常の流れとしては、まずアウトライナーなりでアウトライン、つまりロジックを作ってやって、その後適切なフレーズを考えてロジックを肉付けし、文章にするというやり方になる。ロジックが決まっている以上、そこにフレーズ以上のランダム要素、逸脱の入る余地は無い。しかしアウトライナーを活用することで、いつもとは逆向きの文章作成ができるのではないかなと思う。すなわち、頭の中に浮かんでくるランダムで並列的、かつ粒度もばらばらなフレーズをアウトライナーで捉え、それらを並べ直して階層構造を持たせることで文章にする方法である。論理が要求されない、思考の飛躍を面白さとするコンテンツ、たとえば詩なんかはそんな感じで作れるのかもしれない。

 

 

おわりに

アウトライナーを用いたボトムアップでの文章の組み立て、それに発想法、あるいは人生と不可分にすること、それらはアウトラインを作るという本来の用途からは外れるけれども、アウトライナーの新たな活用法として意義深い。そしてそれらを10年単位で継続し、書籍に体系化するまでの強度に練り上げた著者の活動は、それだけで価値のあるものである。■